2012年01月19日
*悲しいけれど明るく、さようなら* 『エンディングノート』
先日、シネギャラリーで
今年初めての映画を観ました。
観終わった今、
『年の始めにこの作品に出逢えて気持ちが引き締まった』と思います。
高度成長期に熱血営業マンとして駆け抜けた
『段取り命』のサラリーマン、砂田友昭氏。
丸の内にある化学メーカーの役員を経て 退職。
さぁ、第二の人生を楽しもうとした矢先に
ステージ4の胃ガンがみつかります。
まさに、人生の誤算であるガンの訪れに、
彼自身が全力で取り組んだプロジェクトは
『自らの死への段取り』でした。
予告は、
こちらからどうぞ。
是枝監督のもとで、監督助手をしていた
砂田麻美さんがご自身のお父上砂田氏を撮り、編集・監督をした作品です。
砂田氏が、まず取り組んだことは
『エンディングノート』と呼ばれるマニュアル作りでした。
それ自身には、公的な効力はないようですが、
自分がいなくなった後、家族が困らないように作成する覚書のようなものでしょうね。
11の項目からできていて
それに従ってドキュメンタリーは進行していきます。
① 神父を訪ねる
② 気合を入れて孫と遊ぶ
③ 自民党以外に投票してみる
④ 葬式をシュミレーションする
⑤ 家族、そして94歳の母と旅行をする
⑥ 式場(教会)を下見する
⑦ もう一度孫と遊ぶ
⑧ 孫に挨拶、母に電話
親友と談笑
息子に引き継ぎ
⑨ 洗礼を受ける
⑩ 妻に(初めて)愛していると言う
⑪ エンディングノート
末期のガンですから、
砂田さんは一気に痩せていきます。
が、
次々と終活の段取りを精力的にこなしていきます。
家族旅行で
94歳のお母様が、砂田氏に
『一緒に死ねれば楽なのにね』と言い、二人は笑いあいますが
お母様の気丈さに、悲しみが溢れます。
アメリカに住んでいる長男家族の3人のお孫さんに対して
『もっと、大きくなるまで見守りたい』と言う気持ちと
『ありがとね、ありがとね。』と言う感謝の言葉は
孫を持つ我が身に照らし合わせ
幼き者への愛おしさが深く伝わってきました。
砂田ご夫妻は
絵にかいたような仲良しご夫妻というわけではなく
離婚の危機もあり、
奥様にとっては
『会社人間から解放され、ようやく二人で人生を楽しもうとしたその時に・・』と言う思いがあり
クールな雰囲気を醸し出していました。
しかし、
砂田氏の人生が閉じようとしたその数日前に
『こんなことになるなら、もっと、もっと優しくしてあげれば。。。』と奥様の言葉に
砂田氏が
『ありがとう』と言います。
とても、か細い声でしたが、
その言葉に奥様は救われる思いだったのではないでしょうか。
『死』がテーマではありますが
ひたすら悲しいということではなく
砂田氏と砂田ファミリーの明るくて、さっぱりとしたキャラクターが
爽やかな別れとして、わたくしの目に映りました。
そして、砂田氏の人生は、
確かに69年と言う短いものでしたが
開業医のお宅に生まれ、
会社役員として67歳まで現役で働けたこと、
お子さん3人がそれぞれに優秀であり(←わたくしの想像ですが)
お孫さんに恵まれ、
都内中心部に居を構え、
一流の病院で看取られ
聖イグナチオ教会で最後の式を挙げることができたこと。
知的で生活レベルの高い、かなり恵まれた環境にあった方だと思います。
こんな風に死を迎えることができた砂田さんは
良く生きることを心がけ
自分に起きている現実を
そして
すぐそこまで来ている結果を冷静に受け止め
人生最後のプロジェクトを完璧にこなした
一流のサラリーマンだったのだな~と思いました。
砂田さんがおっしゃっていた
『終活』って
とても大切なことだと、
今、自分も年齢を重ねて、
改めて思うわけです。
人生の節目で
自分が主人公であるシーンは、そう多くないですよね。
生まれた時のことは、覚えていませんですし(可愛かったらしいです

自分のお葬式には参列できませんでしょ。
唯一、
結婚式くらいでしょうが
あまりにも、いにしえのこと故、記憶が・・・・


元気で暮らしている今だからこそ
自分自身をもっと知ることと
なるべく正しい生き方をしたいってこと、
まだ色々ありますが、欲張ったところで
所詮、無理ですしね。
砂田氏を乗せた霊柩車が
イグナチオ教会から四谷の街に走り出す
その光景は
緑に囲まれて
眩しいほどに美しく
『あ~、東京ってやっぱりいい街だな~』と思いました。